【2026年最新】イラン情勢の現状と今後の見通しを徹底解説!戦争リスクと経済危機・アメリカとの関係まで

  1. 1. 導入:2026年、なぜイラン情勢が「世界最大のリスク」となっているのか?
    1. 1-1. 内憂外患のピークを迎えているイランの現在地
    2. 1-2. 読者がこの問題を知っておくべき理由(原油価格・世界経済への影響)
    3. 1-3. 本記事で得られる知識と問題解決の提示
  2. 2. イラン情勢の基礎知識:複雑な中東問題の要衝を理解する
    1. 2-1. イスラム共和制という独自の政治体制(最高指導者と大統領の違い)
    2. 2-2. イスラム教シーア派の盟主としてのイランの立ち位置
    3. 2-3. アメリカおよびイスラエルとの歴史的対立の根本原因
  3. 3. 【歴史的転換点】2025年6月「イラン・イスラエル戦争」の全貌
    1. 3-1. 戦争勃発の経緯とイスラエルによる「先制攻撃」の意図
    2. 3-2. イラン側の反撃と激しい攻防
    3. 3-3. この武力衝突が中東全体にもたらした不可逆的な変化と余波
  4. 4. トランプ政権の復帰とアメリカの「最大限の圧力」の再開
    1. 4-1. トランプ大統領の強硬姿勢とイランに対する「最後通告」
    2. 4-2. 経済制裁のさらなる強化とイランの核開発の現状
    3. 4-3. 国際原子力機関(IAEA)との対立と国際社会の懸念
  5. 5. 2026年現在進行形の危機:米・イラン核協議の行方と軍事衝突のリスク
    1. 5-1. 2026年2月にスイスで開催された第2回核協議の主要な焦点
    2. 5-2. 協議が決裂した場合に想定されるアメリカ・イスラエルによる報復攻撃
    3. 5-3. 外交的解決の道は残されているのか?各国の水面下の思惑
  6. 6. 【内政の危機】2025年末から続くイラン大規模反政府デモの実態
    1. 6-1. 発端はインフレと物価高騰に対する国民の不満
    2. 6-2. 経済闘争から「現政治体制の終焉」を求める広範な運動への発展
    3. 6-3. 治安部隊による厳しい弾圧と、体制維持の限界点
  7. 7. イラン経済の崩壊的危機:制裁、インフレ、国民生活への影響
    1. 7-1. アメリカの制裁がもたらした原油輸出の激減と外貨不足
    2. 7-2. 自国通貨「リヤル」の歴史的暴落とハイパーインフレの脅威
    3. 7-3. デモの温床となる若年層の失業問題と疲弊する国民生活
  8. 8. イランが支援する「抵抗の枢軸」と中東全域への波及リスク
    1. 8-1. レバノンの「ヒズボラ」やパレスチナの武装勢力との関係性
    2. 8-2. シリア、イラク、イエメンにおけるイランの代理勢力の影響力
    3. 8-3. 周辺アラブ諸国(サウジアラビア等)との複雑な外交関係
  9. 9. イラン情勢が日本経済と私たちの生活に与える影響
    1. 9-1. 中東の緊迫化による原油価格の高騰とエネルギーリスク
    2. 9-2. 日本の物価上昇(インフレ)に直結するサプライチェーンへの打撃
    3. 9-3. 日本政府の外交的スタンスと事態沈静化に向けた取り組み
  10. 10. 【今後の見通し】イラン情勢・3つのシナリオ
    1. 10-1. シナリオA:外交的妥協による一時的な緊張緩和(可能性:中)
    2. 10-2. シナリオB:核協議決裂に伴う全面的な戦争の再燃(可能性:高)
    3. 10-3. シナリオC:大規模デモによるイラン現体制の崩壊(可能性:低〜中)
  11. 11. イラン情勢に関するよくある質問(FAQ)
    1. 11-1. Q: イランは実際に「核兵器」をすでに保有しているのですか?
    2. 11-2. Q: 現在、イランへの旅行や渡航は危険ですか?
    3. 11-3. Q: 私たち個人投資家や一般家庭は、イラン情勢にどう備えるべきですか?
  12. 12. まとめ:イラン情勢の今後の動向をどう見守るべきか
    1. 12-1. 本記事の重要ポイントのおさらい
    2. 12-2. 今後注視すべきニュースのキーワード
    3. 12-3. アクションプラン:地政学リスクを前提とした情報収集とリスク管理

1. 導入:2026年、なぜイラン情勢が「世界最大のリスク」となっているのか?

現在、2026年2月。日々ニュースを賑わす国際情勢の中で、最も緊迫度が高く、かつ私たちの生活に直結する「世界最大のリスク」がイラン情勢です。なぜ遠く離れた中東の一国が、これほどまでに世界中から警戒されているのでしょうか。

1-1. 内憂外患のピークを迎えているイランの現在地

結論から申し上げると、現在のイランは歴史上類を見ないほどの「内憂外患」——つまり国内外の両面における致命的な危機——のピークを迎えています。

外政に目を向ければ、2025年6月に発生したイスラエルとの直接的な軍事衝突、そしてアメリカ・トランプ政権による「最大限の圧力(経済制裁や追加関税の大統領令)」が重くのしかかっています。2026年2月にスイスで再開された米イラン核協議も、予断を許さない緊迫した状況が続いています。トランプ大統領がイランへの「限定攻撃」を検討しているとの報道すら飛び交う事態です。

一方、内政(内憂)はさらに深刻です。2025年12月末から全国規模で勃発した反政府デモは、当初の「物価高・インフレへの抗議」から、一気に「現体制の打倒」を掲げる運動へと急拡大しました。イランの自国通貨「リヤル」は歴史的な暴落を記録し、国民の生活は限界に達しています。まさに「いつ火柱が上がってもおかしくない火薬庫」の上に、現在のイラン体制は立っているのです。

1-2. 読者がこの問題を知っておくべき理由(原油価格・世界経済への影響)

「中東のいざこざは、日本に住む自分には関係ない」と思うかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。イラン情勢の悪化は、私たちの財布を直接直撃するメカニズムを持っています。

その最大の理由は「原油価格の高騰」です。イランが面するホルムズ海峡は、世界の石油消費量の約2割、日本が輸入する原油の約8割が通過する「世界経済の大動脈」です。もしイランとイスラエル・アメリカの対立が決定的な戦争へと発展し、この海峡が封鎖されればどうなるでしょうか。

  • 具体例1:ガソリン価格が一気に1リットルあたり数十円から数百円単位で跳ね上がります。
  • 具体例2:輸送コストの上昇により、スーパーに並ぶ食料品や日用品の価格がさらなる値上げラッシュを迎えます。
  • 具体例3:世界的なインフレ懸念から金融市場がパニックに陥り、株価の急落(S&P500や日経平均への打撃)を招きます。

実際に、2026年2月現在、日本の外務省は中東54カ国・地域に注意喚起を出しており、グローバル企業や投資家たちは「イラン有事」のリスクを真剣に織り込み始めています。

1-3. 本記事で得られる知識と問題解決の提示

本記事では、この複雑に絡み合ったイラン情勢を、歴史的背景から2026年最新のトランプ政権の動向まで、誰にでもわかるように「辞書レベル」で徹底解説します。

単なるニュースの羅列ではなく、「なぜイスラエルと対立しているのか?」「核協議の決裂は何を意味するのか?」「私たちの生活や投資にどう影響するのか?」といった、あなたが抱える疑問や潜在的な不安を一つ残らず解消します。この記事を最後までお読みいただければ、複雑な中東ニュースの点と点が線で繋がり、明日からの経済動向を自分自身の頭で予測できるようになるはずです。

2. イラン情勢の基礎知識:複雑な中東問題の要衝を理解する

イラン情勢の「今」を正確に読み解くためには、国を動かしている根本的なルールや、周辺国との歴史的関係性を知っておく必要があります。ここでは最低限押さえておくべき3つの基礎知識を解説します。

2-1. イスラム共和制という独自の政治体制(最高指導者と大統領の違い)

イランのニュースを見ていると、「大統領」と「最高指導者」という2つの役職が登場し、混乱した経験はないでしょうか。イランは世界でも珍しい「イスラム共和制」という政治体制を敷いています。

  • 最高指導者(ハメネイ師):イランの国家元首であり、事実上の絶対的な権力者です。軍隊(革命防衛隊)の統帥権、司法トップの任命権、外交政策の最終決定権など、あらゆる国家権力を握っています。選挙ではなく、イスラム法学者の会議で選ばれます。
  • 大統領:国民の直接選挙で選ばれる行政のトップですが、その権限は最高指導者の枠内に限られます。経済政策や日常的な行政運営を担いますが、国の根幹に関わる方針(核開発や対米関係など)において最高指導者に逆らうことはできません。

つまり、大統領がどれほど「欧米と対話したい(穏健派)」と主張しても、最高指導者が「アメリカとは絶対に妥協しない(強硬派)」と決めれば、それが国家の絶対ルールになるという構造です。これが、イランの外交が強硬になりやすい最大の理由です。

2-2. イスラム教シーア派の盟主としてのイランの立ち位置

中東の複雑な対立構造を理解する鍵が「宗教の宗派」です。イスラム教には大きく分けて「スンニ派」と「シーア派」がありますが、世界のイスラム教徒の約9割はスンニ派です。

しかし、イランは少数派である「シーア派」の圧倒的な盟主(トップ)として君臨しています。イランは中東全域で自分たちの影響力を拡大するために、他国のシーア派系武装組織に資金や武器を提供し、強力に支援しています。

※用語解説:抵抗の枢軸(Axis of Resistance)
イランが支援する、反米・反イスラエルを掲げる非国家武装勢力のネットワークのこと。レバノンの「ヒズボラ」、イエメンの「フーシ派」、イラクのシーア派民兵組織などがこれに該当します。

イランは自国の正規軍を直接動かすのではなく、これらの「代理勢力(抵抗の枢軸)」を使ってイスラエルやアメリカを攻撃・牽制するという巧みな戦略をとってきました。これが中東の紛争を長引かせ、複雑にしている大きな要因です。

2-3. アメリカおよびイスラエルとの歴史的対立の根本原因

「そもそも、なぜイランはアメリカやイスラエルとこれほど憎み合っているのか?」という疑問にお答えします。

【対アメリカ】
発端は1979年の「イラン・イスラム革命」です。当時、アメリカの支援を受けていた親米の王政が民衆の力で打倒され、反米を掲げる現在のイスラム体制が誕生しました。その際、イランの過激派学生がアメリカ大使館を占拠する事件(イランアメリカ大使館人質事件)が発生し、両国は国交を断絶。以来40年以上にわたり、イランにとってアメリカは「大サタン(悪魔)」であり続けています。

【対イスラエル】
イランは国家として「イスラエルの存在」そのものを認めていません。イスラエルがパレスチナの地を不当に占領しているとみなし、「パレスチナ解放」を大義名分として掲げています。イスラエルにとって、自国の消滅を公言し、核兵器の開発を進め、周辺の武装組織にミサイルを供給するイランは「最大の生存の脅威」です。互いに「存在を許さない」という前提があるため、両国の対立には妥協点が極めて見出しにくいのが現実です。

3. 【歴史的転換点】2025年6月「イラン・イスラエル戦争」の全貌

ここからは、現在の危機的状況を決定づけた近年の最大の事件を振り返ります。それは、歴史の転換点となった2025年6月の「イラン・イスラエル軍事衝突」です。代理戦争ではなく、両国が直接火の手を交えたこの事件は、世界中を震撼させました。

3-1. 戦争勃発の経緯とイスラエルによる「先制攻撃」の意図

事の発端は2025年6月13日、イスラエル軍がイラン国内の複数の核関連施設や軍事中枢に対して、大規模な「先制攻撃(空爆)」を敢行したことでした。

なぜイスラエルはこのタイミングで暴挙とも言える先制攻撃に踏み切ったのでしょうか?その最大の理由は、イランの核兵器開発が「後戻りできない最終段階(ブレイクアウト・タイムの極端な短縮)」に達したという強烈な焦燥感です。
イスラエルは長年、「イランの核武装は絶対に阻止する。必要であれば単独でも軍事力を行使する」と公言してきました。国際社会(特にアメリカ)の外交努力に限界を感じたイスラエル指導部は、自国の安全保障を根底から守るため、非難を覚悟の上でイランの核開発インフラを物理的に破壊する行動に出たのです。

3-2. イラン側の反撃と激しい攻防

自国の領土、しかも国家の威信をかけた核施設を直接攻撃されたイランは、即座に猛烈な報復に出ました。

攻撃を受けた同日、イランはイスラエル領土に向けて、数百機にも及ぶ自爆型無人機(ドローン)や弾道ミサイルを発射。これに対しイスラエルは、防空システム「アイアンドーム」や「アロー」などを駆使し、アメリカ軍の支援も受けながらその大半を撃墜しました。しかし、数に勝る飽和攻撃の一部はイスラエル国内に着弾し、民間人を含む甚大な被害をもたらしました。

  • 報復の連鎖:イスラエルも再度イラン領内への限定的な攻撃を行い、両国間をミサイルが飛び交う「直接の殴り合い」が数日間にわたって続きました。
  • 停戦への着地点:事態の制御不能な拡大(第三次中東戦争)を恐れた国際社会が猛烈に介入。6月下旬、アメリカのトランプ大統領(当時就任直後)などの強い圧力と水面下の交渉により、双方が「勝利」を主張したまま、辛うじて一時的な停戦合意に至りました。

3-3. この武力衝突が中東全体にもたらした不可逆的な変化と余波

2025年6月の衝突は、2週間足らずで一旦の停戦を迎えましたが、中東の地政学に「不可逆的(元には戻れない)な変化」を刻み込みました。

  1. 「直接攻撃のタブー」の崩壊:これまでイランとイスラエルは、サイバー攻撃や要人暗殺、代理勢力を使った「影の戦争」に留めてきました。しかし、この衝突によって「互いの領土を直接ミサイルで攻撃し合う」というタブーが完全に破られました。次の衝突のハードルは格段に下がっています。
  2. イラン国内の経済的疲弊の加速:核施設への攻撃と戦争の混乱は、イラン経済に深刻なダメージを与えました。戦費の増大と制裁の強化により、この半年後の2025年12月に勃発する「大規模反政府デモ」の直接的な引き金となったのです。
  3. 各国の防衛戦略の転換:周辺のアラブ諸国(サウジアラビアやUAEなど)は、イランのミサイル能力の脅威を目の当たりにし、防衛網の再構築や独自の外交バランスの見直しを余儀なくされました。

「あの6月の戦争」が一時的な停戦で終わったことは、決して平和の訪れではなく、2026年現在のさらなる大爆発に向けた「導火線への点火」に過ぎなかったのです。

4. トランプ政権の復帰とアメリカの「最大限の圧力」の再開

2025年6月のイスラエルとの軍事衝突に続き、イランにとって最大の悪夢となったのが、アメリカにおけるトランプ政権の復帰です。第1次政権時代(2017〜2021年)にイラン核合意から一方的に離脱し、厳しい制裁を科したトランプ大統領は、今回さらに容赦のない強硬策に打って出ています。

4-1. トランプ大統領の強硬姿勢とイランに対する「最後通告」

トランプ政権の対イラン政策の基本方針は、「最大限の圧力(Maximum Pressure)2.0」と呼ぶべき極めて強硬なものです。

就任直後から、トランプ大統領は「イランの核兵器保有は絶対に許さない。資金源である原油輸出を完全に断ち切る」と明言しました。バイデン前政権下で黙認されつつあったイラン産原油の密輸(主に中国向け)に対し、二次的制裁(セカンダリー・サンクション)を厳格に適用することで、イランの経済的な逃げ道を徹底的に塞ぎにかかっています。

さらに、トランプ大統領はイラン政府に対し「核開発の即時停止と、中東各地の武装勢力(抵抗の枢軸)への支援打ち切り」を迫る、事実上の「最後通告」を突きつけました。これに従わない場合、さらなる軍事的選択肢も辞さないという姿勢を崩しておらず、中東全域に極度の緊張が走っています。

4-2. 経済制裁のさらなる強化とイランの核開発の現状

アメリカの制裁強化に対し、イラン側もただ黙っているわけではありません。イランは対抗措置として、ウラン濃縮活動をかつてない危険水域まで引き上げています。

※用語解説:ウラン濃縮度と兵器化のボーダーライン
原子力発電に使われるウランの濃縮度は3〜5%程度ですが、核兵器を作るためには「90%以上(兵器級)」が必要です。

2026年現在、イランはすでにウランの濃縮度を60%まで引き上げており、さらにそれを蓄積しています。専門家の間では、「イランがその気になれば、数週間から数ヶ月(ブレイクアウト・タイム)で核爆弾数発分の兵器級ウラン(90%)を製造できる段階にある」と分析されています。経済制裁で首を絞められれば絞められるほど、イランは「核兵器という最強のカード」をチラつかせてアメリカを牽制するという、極めて危険なチキンレースが展開されているのです。

4-3. 国際原子力機関(IAEA)との対立と国際社会の懸念

この危険な状況に拍車をかけているのが、イランと国際原子力機関(IAEA)の決定的な対立です。

本来であれば、IAEAの査察官がイランの核施設に立ち入り、監視カメラ等で「兵器化が進んでいないか」をチェックします。しかし、イランは欧米の制裁への抗議として、IAEAの監視カメラの大半を撤去し、抜き打ち査察を拒否しています。

つまり、現在の国際社会は「イランの核施設の奥深くで、今まさに何が行われているのか正確に把握できない(ブラインド状態)」に陥っているのです。この「見えない恐怖」が、イスラエルやアメリカに「手遅れになる前に軍事施設を破壊すべきだ」という強硬論を台頭させる最大の要因となっています。

5. 2026年現在進行形の危機:米・イラン核協議の行方と軍事衝突のリスク

こうした一触即発の状況を打開するため、2026年2月、スイスのジュネーブで「米・イラン核協議(第2回)」が開催されました。しかし、これは平和への道筋というよりも、破滅を回避するための「綱渡りの外交」です。

5-1. 2026年2月にスイスで開催された第2回核協議の主要な焦点

この協議は、欧州連合(EU)の仲介のもと、アメリカとイランの代表団が間接的に交渉を行う形式で進められています。主要な焦点は以下の2点です。

  1. アメリカ側の要求:イランがウラン濃縮を即座に停止し、IAEAの完全な査察を受け入れること。また、中東の武装勢力への資金・武器支援を停止すること。
  2. イラン側の要求:アメリカが経済制裁(特に原油禁輸と金融制裁)を完全に解除し、将来の政権交代後も制裁を再開しないという「法的保証」を与えること。

双方が提示している条件は、互いに「絶対に譲れない一線」であるため、溝は絶望的なまでに深く、協議は難航を極めています。

5-2. 協議が決裂した場合に想定されるアメリカ・イスラエルによる報復攻撃

もし、このスイスでの核協議が完全に決裂した場合、世界は最悪のシナリオに直面することになります。それは、アメリカ、あるいはイスラエルによるイラン核施設への大規模な軍事攻撃(サージカル・ストライク)です。

  • 標的となる施設:フォルドゥやナタンズといった、地下深くの強固な岩盤に守られたウラン濃縮施設が標的となります。
  • 使用される兵器:地下施設を破壊するため、アメリカ軍が保有する超大型貫通爆弾(バンカーバスター)が使用される可能性が高いと軍事専門家は指摘しています。

しかし、これらの施設を完全に破壊することは容易ではなく、攻撃が行われればイランは間違いなくイスラエルや中東の米軍基地、さらには原油の輸送ルート(ホルムズ海峡)に対して全面的な報復攻撃を行います。これは事実上の「第五次中東戦争」の勃発を意味します。

5-3. 外交的解決の道は残されているのか?各国の水面下の思惑

全面戦争を望む国は、本音のところ一つもありません。そのため、水面下では激しい外交戦が繰り広げられています。

例えば、イランと友好的な関係にある中国ロシアです。中国はイラン産原油の最大の買い手であり、中東の安定を経済的利益のために必要としています。ロシアはウクライナ戦争の文脈においてイランから軍事支援(ドローン等)を受けており、イランの体制崩壊は避けたいと考えています。
一方、ヨーロッパ諸国(英・仏・独)は、トランプ政権の強硬策に同調しつつも、戦争による難民の大量流入やエネルギー危機を恐れ、必死にイランを引き留めようとしています。核協議のテーブルは、こうした大国同士の複雑な思惑が交差する「最後の防波堤」となっているのです。

6. 【内政の危機】2025年末から続くイラン大規模反政府デモの実態

アメリカからの外圧(外患)が頂点に達する中、イランの足元(内憂)もまた、崩壊の危機に瀕しています。2025年12月末に勃発し、2026年現在も燻り続けている「大規模反政府デモ」は、現体制にとって過去最大の脅威となっています。

6-1. 発端はインフレと物価高騰に対する国民の不満

デモの直接的な引き金となったのは、国民生活を直撃した異常な物価高騰(ハイパーインフレ)と、政府による補助金の突然のカットでした。

アメリカの経済制裁によって外貨収入(原油の売り上げ)が激減したイラン政府は、財政赤字を埋めるために紙幣を乱発し、結果として自国通貨「リヤル」の価値は紙くず同然に暴落しました。

  • 具体例:前日まで買えていたパンや卵、食用油の価格が数日で2倍〜3倍に跳ね上がり、ガソリン価格の補助金も削減されました。

「明日のご飯が食べられない」「真面目に働いても生活が成り立たない」という底辺からの悲痛な叫びが、SNSを通じて瞬く間に全国の都市へと燃え広がったのです。

6-2. 経済闘争から「現政治体制の終焉」を求める広範な運動への発展

当初は「パンと仕事を寄こせ」という純粋な経済要求だったデモは、わずか数週間でその性質を劇的に変化させました。

国民の怒りの矛先は、経済を破綻させた無策な政府だけでなく、莫大な国家予算を国内のインフラ整備ではなく、他国の武装組織(ヒズボラなど)への支援や核開発に注ぎ込んでいる「最高指導者体制そのもの」へと向かったのです。

街頭では、「独裁者に死を」「パレスチナでもレバノンでもなく、私の命はイランのために」といった、イスラム体制の根幹を真っ向から否定するスローガンが叫ばれるようになりました。若者、女性、労働者、さらにはこれまで体制を支持してきた一部の保守層までもがデモに参加し、運動はかつてない規模と多様性を持つに至りました。

6-3. 治安部隊による厳しい弾圧と、体制維持の限界点

この未曾有の危機に対し、イラン政府は徹底的な「力による弾圧」を選択しました。

  • 弾圧の実態:イスラム革命防衛隊(IRGC)や民兵組織「バシジ」が街頭に動員され、実弾や催涙ガスを使ってデモ隊を容赦なく鎮圧。インターネット通信は遮断され、数千人規模の逮捕者と多数の死傷者が出ていると国際人権団体は告発しています。

表面上は、治安機関の圧倒的な暴力によってデモは一時的に鎮静化したように見えるかもしれません。しかし、根本的な原因である「経済の崩壊」と「国民の体制への絶望」は何一つ解決していません。

現在のイラン体制は、国民の支持ではなく、治安部隊の銃口によって辛うじて権力を維持しているに過ぎません。次に経済的なショックが起きた時、あるいは最高指導者の健康問題など不測の事態が発生した時、この抑圧されたマグマが再び、そして今度こそ体制を飲み込む大噴火を起こす限界点に達しているのです。

7. イラン経済の崩壊的危機:制裁、インフレ、国民生活への影響

第6章で解説した大規模デモの根本原因であり、現在のイラン体制のアキレス腱となっているのが「経済の完全なる崩壊」です。豊富な資源を持つ大国でありながら、なぜイラン国民はこれほどまでに苦窮しているのでしょうか。

7-1. アメリカの制裁がもたらした原油輸出の激減と外貨不足

結論から言えば、イラン経済の首を真綿で絞め続けている最大の要因は、アメリカによる「二次的制裁(セカンダリー・サンクション)」です。

イランは世界屈指の原油・天然ガス埋蔵量を誇る資源大国であり、国家予算の大部分をエネルギー輸出に依存してきました。しかし、トランプ政権による制裁は「イランと取引をした企業や銀行は、アメリカ市場から締め出す」という極めて強力なものです。

  • 理由:世界の基軸通貨は米ドルであり、国際的な銀行の決済システム(SWIFTなど)も欧米が主導しています。アメリカ市場から締め出されるリスクを冒してまでイランから原油を買おうとする先進国は皆無となりました。
  • 具体例:かつてイラン産原油の主要な顧客であった日本や韓国、ヨーロッパ諸国は輸入を完全に停止しました。現在、イランは制裁の網の目をかいくぐり、中国の小規模な独立系製油所などに「大幅な割引価格」で密輸船(暗黒船団)を使って売るしかなく、得られる外貨(ドル)は最盛期の数分の一に激減しています。

外貨が入ってこないため、イランは医薬品や工業用の部品など、海外からの輸入品を買うことができず、国内産業全体が機能不全に陥っているのです。

7-2. 自国通貨「リヤル」の歴史的暴落とハイパーインフレの脅威

外貨不足が引き起こした最悪の事態が、自国通貨「リヤル」の価値の喪失と、それに伴うハイパーインフレ(超物価高)です。

政府は外貨収入が減った穴を埋めるため、中央銀行に紙幣(リヤル)を大量に刷らせて公務員の給与や補助金を支払おうとしました。しかし、裏付けのないお金を刷れば刷るほど、通貨の価値は下がります。

  • 実態:2015年の核合意当時は1ドル=約3万リヤルだった実勢レートが、2026年現在では1ドル=数十万リヤルという天文学的な数字にまで暴落しています。
  • 国民生活への打撃:通貨の価値が下がるということは、輸入品の価格が跳ね上がることを意味します。食料品の多くを輸入に頼るイランでは、パン、肉、乳製品などの生活必需品が前年比で50%〜100%以上の値上がりを記録しています。「給料をもらっても、翌週にはそのお金で買える卵の数が半分になっている」という異常事態が、何年にもわたって日常化しているのです。

※用語解説:ハイパーインフレ
物価が短期間に制御不能なスピードで上昇し続ける経済状態。通貨への信用が失われ、人々は現金を持つことを避け、金(ゴールド)や外貨、現物資産に替えようとするため、さらに経済の混乱が加速します。

7-3. デモの温床となる若年層の失業問題と疲弊する国民生活

このような経済崩壊の中で最も割を食っているのが、人口の過半数を占める若年層です。

イランは教育水準が高く、優秀な大卒の若者が毎年大量に社会に出ます。しかし、制裁によって国内企業は倒産や事業縮小を余儀なくされており、彼らを受け入れる雇用が圧倒的に不足しています。実質的な若年層の失業率は30%を超えているとも言われています。

真面目に勉強して大学を出ても仕事がない。仮に仕事があっても、ハイパーインフレのせいで家を借りることも、結婚することもできない。この「未来に対する完全な絶望感」こそが、若者たちが命の危険を冒してまで街頭に繰り出し、体制打倒を叫ぶデモの最強の原動力となっているのです。また、国に見切りをつけた優秀な医師やエンジニアの海外流出(頭脳流出)も止まらず、イランの国力は内側から急速に空洞化しています。

8. イランが支援する「抵抗の枢軸」と中東全域への波及リスク

イランは自国の正規軍を動かすだけでなく、中東各地に点在する武装組織を操ることで、地域全体の覇権を握ろうとしています。これが、イラン情勢が「一国だけの問題」で終わらない最大の理由です。

8-1. レバノンの「ヒズボラ」やパレスチナの武装勢力との関係性

イランの対外戦略の根幹をなすのが「抵抗の枢軸(Axis of Resistance)」と呼ばれるネットワークです。その中で最強の「王将」とも言えるのが、レバノンを拠点とするシーア派武装組織「ヒズボラ」です。

  • ヒズボラの脅威:イランから莫大な資金と最新鋭のミサイル数十万発を供与されており、一国の正規軍を凌ぐほどの軍事力を誇ります。イスラエルの北の国境に張り付き、常にイスラエルを威嚇し続けています。
  • パレスチナの武装勢力:ガザ地区を実効支配する「ハマス」や「イスラム聖戦」はスンニ派ですが、反イスラエルという共通の目的のため、イランから資金や武器製造の技術支援を受けています。

イランはこれらの組織を通じて、直接手を下すことなくイスラエルを「火の輪」で囲い込み、継続的に消耗させる戦略をとっています。

8-2. シリア、イラク、イエメンにおけるイランの代理勢力の影響力

イランの触手は、イスラエル周辺だけにとどまりません。

  1. シリアとイラク:内戦の混乱に乗じて、イランの精鋭部隊「革命防衛隊コッズ部隊」が多数のシーア派民兵組織を育成しました。彼らはイラクやシリアに駐留するアメリカ軍基地を度々ドローンやロケット弾で攻撃し、アメリカに対する強力な牽制役を果たしています。
  2. イエメンの「フーシ派」:イエメンの内戦で台頭した親イランの武装組織です。彼らはイランから供与されたドローンや対艦ミサイルを使用し、紅海を航行する商船を無差別に攻撃しています。

特にフーシ派による紅海の封鎖は、アジアとヨーロッパを結ぶ海上物流を麻痺させ、世界的なサプライチェーンの混乱と輸送コストの高騰(インフレ)を引き起こす直接的な原因となっています。

8-3. 周辺アラブ諸国(サウジアラビア等)との複雑な外交関係

中東におけるもう一つの巨大な対立軸が、「シーア派の盟主イラン」vs「スンニ派の盟主サウジアラビア」です。

両国は長年、中東各地(イエメンやシリアなど)で代理戦争を繰り広げてきました。2023年に中国の仲介によって電撃的な国交正常化を果たしたものの、それはあくまで「戦術的な休戦」に過ぎません。2026年現在、イランの核開発が臨界点に達し、イスラエルとの軍事衝突が激化する中で、サウジアラビアは再び極度の警戒を強めています。

サウジアラビアやUAEといった湾岸アラブ諸国は、自国の経済発展(脱石油依存の近代化)のために地域の安定を何よりも望んでいます。そのため、中東に戦火を広げようとするイランの動きは絶対に容認できず、アメリカの防衛の傘の下に入りつつ、最悪の事態(イランからのミサイル攻撃)に備えて防空網の強化を急いでいます。

9. イラン情勢が日本経済と私たちの生活に与える影響

ここまで解説してきた中東の複雑な対立は、決して遠い国の「対岸の火事」ではありません。イランの動向は、海を越えて日本の食卓や家計を直撃する恐るべき破壊力を秘めています。

9-1. 中東の緊迫化による原油価格の高騰とエネルギーリスク

イラン情勢が悪化すると、真っ先に反応するのが「原油価格」です。

イランの南に位置する「ホルムズ海峡」は、幅がわずか数十キロしかない非常に狭い海峡ですが、世界の石油貿易の約2割がここを通過します。そして何より、日本が輸入する原油の約8割がこのホルムズ海峡を通って運ばれてきます。

  • 最悪のシナリオ:もしアメリカやイスラエルとの戦争が本格化し、イランが報復として「ホルムズ海峡の封鎖(機雷の敷設やタンカーへの攻撃)」に踏み切った場合、世界のエネルギー市場はパニックに陥ります。
  • 影響の規模:原油価格は現在の1バレル=70〜80ドル台から、一気に150ドル、あるいは200ドルを突破する歴史的な高騰を見せる可能性があります。これは、日本にエネルギーが入ってこなくなる、あるいは異常な高値でしか買えなくなることを意味します。

9-2. 日本の物価上昇(インフレ)に直結するサプライチェーンへの打撃

原油価格の高騰は、そのまま私たちの生活費の急騰(コストプッシュ・インフレ)に直結します。

  1. ガソリン・電気代の高騰:ガソリンスタンドの価格が1リットル200円〜250円を超える事態が現実味を帯びます。また、火力発電の燃料であるLNG(液化天然ガス)の価格も連動して上がるため、家庭や企業の電気代がさらに大幅に引き上げられます。
  2. あらゆる商品の値上げ:原油はプラスチック製品や化学繊維の原料であるだけでなく、「モノを運ぶための燃料(物流コスト)」そのものです。トラックの軽油代や船の燃料代が上がれば、スーパーに並ぶ野菜、肉、日用品、さらには外食チェーンのメニューまで、すべての価格に転嫁されます。

ただでさえ長引く円安に苦しむ日本経済において、「中東発のエネルギーショック」が加われば、賃上げのペースを遥かに上回る物価高騰が国民生活を押し潰すことになります。

9-3. 日本政府の外交的スタンスと事態沈静化に向けた取り組み

この絶体絶命の危機に対し、日本政府は極めて難しい舵取りを迫られています。

日本は伝統的に、イランと良好な独自の外交通りパイプを持ってきました。かつてはイラン産原油の主要な輸入国であり、文化的な交流も深かったため、欧米諸国とは異なり、イラン側も日本に対しては一定の信頼を寄せています。

しかし一方で、日本の安全保障の基軸は「日米同盟」です。トランプ政権がイランに対して強硬姿勢をとる中、日本だけがイランに歩み寄ることは同盟関係に亀裂を生むリスクがあります。

  • 日本のアクションプラン:現在、日本政府は中東のエネルギーに依存する構造的な弱点(アキレス腱)を守るため、総理大臣や外務大臣の特使をイランや周辺アラブ諸国に頻繁に派遣し、「なんとか全面戦争だけは回避してほしい」と水面下で粘り強い説得(シャトル外交)を続けています。

資源を持たない日本にとって、中東の平和は「道徳的な問題」ではなく、国家の生存と国民の生活を守るための「死活問題」なのです。

10. 【今後の見通し】イラン情勢・3つのシナリオ

2026年現在、極限状態にあるイラン情勢は今後どのような結末を迎えるのでしょうか。国際政治の専門家や各国の諜報機関の分析を総合すると、大きく分けて以下の「3つのシナリオ」が想定されています。私たちがニュースを見る際は、現在どのシナリオに近づいているのかを意識することが重要です。

10-1. シナリオA:外交的妥協による一時的な緊張緩和(可能性:中)

【結論】
アメリカ(トランプ政権)とイランが、全面戦争という最悪の事態を避けるために、水面下で「限定的な合意(ミニ合意)」に達するシナリオです。

【理由】
双方が強硬な姿勢を崩していないとはいえ、本音では「制御不能な戦争」は避けたいと考えています。トランプ大統領は「ディール(取引)」を好む政治家であり、イランも体制崩壊を防ぐためには経済制裁のわずかな緩和でも喉から手が出るほど欲しいのが実情です。

【具体例】

  • イラン側の譲歩:ウラン濃縮度を現在の60%から引き下げ、IAEAの査察を一部受け入れる。また、中東の武装勢力(ヒズボラやフーシ派など)への攻撃指示を一時的にストップする。
  • アメリカ側の譲歩:イランが海外(韓国やイラクなど)で凍結されている資金の一部へのアクセスを許可する。あるいは、中国向けの原油輸出に対する制裁を「黙認」レベルに引き下げる。

【反論への回答】
「両国にそこまで歩み寄る余地があるのか?」という疑問があるかもしれません。確かに公式な場での握手は不可能です。しかし、オマーンやカタールといった中立的な中東諸国が仲介役となり、文書化されない「暗黙の了解」として事態を沈静化させる手法は過去にも機能してきました。

【結論】
このシナリオが実現すれば、原油価格は一時的に下落し、世界経済には安堵が広がります。しかし、根本的な対立構造(イスラエルとの敵対や核開発の野望)が消えるわけではないため、あくまで「問題の先送り(一時的な止血)」に過ぎません。

10-2. シナリオB:核協議決裂に伴う全面的な戦争の再燃(可能性:高)

【結論】
現在、最も警戒されているのがこのシナリオです。2026年2月のスイス核協議が完全に決裂し、イランの核兵器完成を恐れたアメリカまたはイスラエルが、軍事攻撃に踏み切るという最悪の展開です。

【理由】
イランの「ブレイクアウト・タイム(核兵器1発分の核物質を製造するのにかかる時間)」は、すでに数週間単位にまで縮まっています。イスラエルにとって、イランの核武装は「国家の消滅」を意味するため、外交交渉が時間稼ぎに使われていると判断した瞬間、単独でも先制攻撃を行うレッドラインを越えています。

【具体例】

  1. 先制攻撃:イスラエル空軍が、イラン内陸部のナタンズやフォルドゥにある地下核施設をバンカーバスター(地中貫通爆弾)で爆撃する。
  2. イランの報復:イランは即座にイスラエルに向けて数千発の弾道ミサイルを発射。同時に、ヒズボラ(レバノン)などの代理勢力が一斉にイスラエルへ総攻撃を仕掛ける。
  3. 海峡封鎖:イラン革命防衛隊が、世界の原油の2割が通過する「ホルムズ海峡」に機雷を敷設し、タンカーを攻撃。物理的に海峡を封鎖する。

【反論への回答】
「アメリカがイスラエルを止めるのではないか」という見方もありますが、トランプ政権は歴代で最も親イスラエル的なスタンスをとっており、有事の際はイスラエルを全面的に軍事支援する可能性が極めて高いです。

【結論】
このシナリオに突入した場合、原油価格は1バレル=150ドルを軽々と突破し、世界的な株価の大暴落と狂乱物価(インフレ)が引き起こされます。日本経済へのダメージは計り知れません。

10-3. シナリオC:大規模デモによるイラン現体制の崩壊(可能性:低〜中)

【結論】
外部からの攻撃ではなく、内側からイランの「イスラム体制」が音を立てて崩れ去るという、いわゆるブラックスワン(予測困難だが起きれば衝撃が大きい事象)的なシナリオです。

【理由】
第6章・第7章で解説した通り、イランの国民生活はハイパーインフレによってすでに限界を超えています。反政府デモは弾圧によって表面上は抑え込まれていますが、国民の体制への憎悪は沸点に達しています。ここに「決定的な引き金」が引かれれば、一気に革命へと発展する土壌が整っています。

【具体例】
最大の引き金となり得るのが、最高指導者ハメネイ師(現在80代後半)の健康問題・死去です。絶対的な権力者が不在となり、後継者争いで指導部が分裂した隙を突いて、数百万人の市民が首都テヘランの広場を占拠する事態が想定されます。もしこの時、弾圧を命じられた軍隊や治安維持部隊(バシジ)の一部が市民側に寝返れば、体制は数週間で瓦解する可能性があります。

【反論への回答】
「強力な武装を持つ革命防衛隊が市民に負けるはずがない」という意見はもっともです。しかし、歴史を振り返れば、1979年のイラン・イスラム革命も、強力な軍隊を持っていた当時の王政が、民衆の怒りのうねりの前にあっけなく崩壊しました。絶対権力は、内側からの亀裂に最も脆いのです。

【結論】
体制が崩壊した場合、イランは一時的に無政府状態(シリアのような内戦状態)に陥るリスクがあり、中東全体に難民の流出やテロリストの台頭といった新たな大混乱を引き起こす可能性を秘めています。

11. イラン情勢に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、イラン情勢のニュースを見る際に読者が抱きやすい「よくある疑問」について、2026年最新の状況を踏まえて明確に回答します。

11-1. Q: イランは実際に「核兵器」をすでに保有しているのですか?

A: 2026年2月現在、イランは「核兵器そのもの」を完成・保有しているわけではありません。しかし、いつでも作れる「能力(材料と技術)」はすでに手中に収めています。

※用語解説:核の閾値(しきいち)国家
核兵器を組み立ててはいないが、政治的な決断さえ下せば、極めて短期間(数週間〜数ヶ月)で製造できる状態にある国家のこと。現在のイランはまさにこれに該当します。

イランはウラン濃縮度を60%まで引き上げて大量に備蓄しており、これを兵器級(90%以上)に引き上げるのは時間の問題です。ただし、「核物質」をミサイルに搭載できる「小型の核弾頭」に設計し直すには、まだ数ヶ月から1年程度の技術的プロセスが必要だと欧米の諜報機関は分析しています。イスラエルは、この「弾頭化」が完了する前に施設を叩き潰そうとしているのです。

11-2. Q: 現在、イランへの旅行や渡航は危険ですか?

A: 極めて危険です。絶対に渡航すべきではありません。

日本の外務省は、イラン全土に対して「レベル3(渡航中止勧告)」または「レベル4(退避勧告)」を発令しています(2026年2月現在)。

危険な理由は、テロや戦争の巻き添えになる物理的なリスクだけではありません。イラン政府は、欧米や日本などの西側諸国の民間人を「スパイ容疑」などの不当な理由で突然拘束し、外交交渉のカード(人質)として利用する「人質外交」を頻繁に行っています。一度拘束されれば、日本の外務省が介入しても数年間は刑務所から出られないケースが多発しています。ビジネスであっても、現在の渡航は命と人生を棒に振るリスクがあります。

11-3. Q: 私たち個人投資家や一般家庭は、イラン情勢にどう備えるべきですか?

A: 「インフレの長期化」と「株価の急落リスク」を前提とした、資産の防衛(分散)が必要です。

イラン情勢が悪化した場合、確実に来るのは「原油高騰による物価上昇」です。これに備えるためのアクションは以下の通りです。

  1. エネルギー関連やコモディティ(商品)への分散投資:有事の際に価格が上がりやすい「原油関連のETF」や、安全資産とされる「金(ゴールド)」をポートフォリオの一部に組み込むことで、株価下落のショックを和らげる(ヘッジする)ことができます。
  2. 現金(円)の価値下落への備え:日本はエネルギーのほぼ100%を輸入に頼っているため、有事が起きれば「極端な円安・ドル高」が進行します。資産を日本円の預金だけで持っていることは非常に危険です。外貨建て資産(米国株や全世界株式のインデックスファンドなど)をコツコツ積み立てておくことが、最大の生活防衛になります。
  3. 家計の見直し:ガソリン代や電気代、食料品がさらに20%〜30%値上がりする事態を想定し、固定費(サブスクリプションやスマホの通信費、保険料など)の削減を今すぐ行うべきです。

12. まとめ:イラン情勢の今後の動向をどう見守るべきか

最後までお読みいただき、ありがとうございます。本記事では、2026年現在のイラン情勢を根底から理解するための情報を網羅的に解説してきました。

12-1. 本記事の重要ポイントのおさらい

複雑な事象を整理するため、最後に3つの重要ポイントを振り返ります。

  1. 内憂外患の極致:イランは、トランプ政権の経済制裁(外患)と、ハイパーインフレによる国民の大規模デモ(内憂)の板挟みになり、体制崩壊の危機に直面しています。
  2. イスラエルとの軍事衝突リスク:イランの核開発がレッドラインに達しており、外交協議(スイスでの核協議など)が決裂すれば、イスラエルによる先制攻撃から「第五次中東戦争」へ発展する危険性が極めて高い状態です。
  3. 日本への甚大な影響:イラン有事は「ホルムズ海峡の封鎖」を意味し、日本のエネルギー供給を直撃します。ガソリン代の暴騰や狂乱物価(インフレ)を引き起こし、私たちの生活や資産にダイレクトに打撃を与えます。

12-2. 今後注視すべきニュースのキーワード

明日からニュースを見る際は、以下のキーワードに注目してください。これらが見出しに踊った時は、事態が大きく動く(あるいは悪化する)サインです。

  • 「IAEA(国際原子力機関)の査察拒否/ウラン濃縮度の引き上げ」
  • 「ホルムズ海峡でのタンカー拿捕・攻撃」
  • 「最高指導者ハメネイ師の健康不安説」
  • 「イスラエル首脳の強硬発言(軍事的選択肢の排除せず、など)」

12-3. アクションプラン:地政学リスクを前提とした情報収集とリスク管理

遠い中東の砂漠で起きている対立は、回り回って必ず日本のあなたの財布に影響を及ぼします。「自分には関係ない」と目を背けるのではなく、「地政学リスクは自分の生活リスクである」と認識することが、これからの激動の時代を生き抜く第一歩です。

まずは今日、ご自身の家計簿や投資ポートフォリオを見直し、「もし来月、ガソリン代が2倍になり、株価が20%暴落したらどうするか?」というシミュレーションを行ってみてください。正しい知識に基づいた事前の準備こそが、あなたと家族を守る最強の盾となります。

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