米国債格下げの衝撃:世界最強の「安全資産」の信用力に陰り

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米国債格下げの衝撃:世界最強の「安全資産」の信用力に陰り

2025年5月16日、大手格付け会社ムーディーズ・レーティングスは米国債の格付けを最上位の「Aaa」から「Aa1」へと1段階引き下げました。これにより、世界三大格付け会社すべてが米国債を最上位から格下げしたことになります。この決定は世界金融市場に波紋を広げ、「世界最強の安全資産」と呼ばれてきた米国債の信用力に陰りが見え始めています。

格下げの理由:膨張する財政赤字と債務

ムーディーズが発表した格下げの主な理由は以下の点です:

  • 米国政府の財政赤字が今後10年間で拡大する見通し
  • 政府債務や利払いの拡大に歯止めがかからない状況
  • 「現在検討されている政策では、赤字を削減できるとは思わない」との判断
  • 過去の自国や他の高格付け国と比較して、財務が悪化する可能性が高いこと

ムーディーズは米国の連邦政府債務がGDPに対する比率で、昨年の98%から2035年までに約134%に増加すると予想しています。この水準は他の先進国と比較しても極めて高く、財政の持続可能性に疑問を投げかけるものです。

三大格付け会社がすべて格下げ

今回のムーディーズによる格下げにより、世界の三大格付け会社すべてが米国債を最上位から格下げたことになります:

  • スタンダード・アンド・プアーズ(S&P):2011年に格下げ
  • フィッチ・レーティングス:2023年8月に格下げ
  • ムーディーズ・レーティングス:2025年5月に格下げ

ムーディーズは1917年以来、米国の格付けを「パーフェクト」としてきましたが、今回108年ぶりに格下げに踏み切りました。

市場への影響と今後の見通し

格下げの発表を受けて、米国の10年国債利回りは4.44%から4.49%程度まで上昇しました。これは大きな上昇幅とは言えないものの、無視できない動きです。

過去の格下げ時には、米国債は「安全資産」としての地位を維持し、むしろ買われる傾向がありました。しかし今回は利回りが上昇したことから、トランプ政権の関税政策による米国経済への打撃や政策の不確実性の高まりが、米国資産への信認低下につながっている可能性があります。

野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏は「主要3格付機関がすべて米国債を最高位から格下げしたことに加えて、この先、減税延長の審議が議会で進むこと、関税の悪影響が米国経済に顕在化すること、トランプ政権がドル安政策を取るとの観測が生じることなどをきっかけに、米国金融市場では『トリプル安』、『ドル離れ』という4月の金融市場の混乱が再燃する可能性も考慮しておく必要がある」と指摘しています。

米政府の反応

ホワイトハウスはムーディーズの格下げ決定に対して強く反発しています。ホワイトハウスのクシュ・デサイ報道官は「ムーディーズにいくらかでも信頼性があるとするなら、過去4年の間に財政破綻が進む中、黙っていなかったはずだ」と批判しました。

一方、民主党上院のチャック・シューマー院内総務は「ムーディーズの米国債格下げは、トランプ大統領と議会共和党に対し、財政赤字を拡大させる税制優遇策の無謀な追求をやめるよう警鐘を鳴らすもの」とする声明を出しています。

日本への影響

米国債の格下げは、世界最大の経済大国の信用力に疑問符が付いたことを意味し、日本を含む世界経済にも影響を与える可能性があります。特に日本は米国債の最大の保有国の一つであり、米国債の価値下落やドル安が進めば、日本の外貨準備資産の価値にも影響が出るでしょう。

また、世界的な「安全資産」としての米国債の地位が揺らげば、投資家のリスク回避姿勢が強まり、新興国からの資金流出や世界的な金融市場の変動性が高まる可能性もあります。

まとめ

米国債の格下げは、単なる象徴的な出来事ではなく、世界経済の構造的な変化を示唆する重要な転換点かもしれません。米国の財政規律の欠如と債務の持続可能性への懸念が高まる中、投資家は資産配分の見直しを迫られる可能性があります。

今後の米国の財政政策や、トランプ政権の経済・貿易政策の行方が注目されます。米国が財政健全化に向けた具体的な道筋を示せるかどうかが、世界経済の安定にとって重要な鍵となるでしょう。

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